帰宅困難者は大都市特有の深刻な被害

震災、台風、集中豪雨などの災害発生時、あらゆる交通機関がマヒして自宅へ帰宅できなくなる方々の事を言います。特に大規模になると予測されているのが、首都圏直下型の震災(第二関東大震災)や、東海・東南海地震です。

震災の発生時刻が昼間12時として、20km以上もの遠方から通勤している方を巻き込むと、首都圏直下地震の場合で650万人の帰宅困難者が発生すると、内閣府・中央防災会議「首都直下地震対策に係る被害想定結果について」で述べられています。

本当に10km歩くことが出来る?

行政は通勤・通学など遠方から来た人々の自宅からの距離が10km以上あると帰宅困難者が発生し、距離が1km加わる毎に1割が脱落(帰宅不能)していき、20kmでは全員脱落すると想定されています。

人の平均的な歩行速度は時速4〜5km。帰宅までの道順を把握、迂回する必要も無かったとして2時間掛かるわけですが、果たして出勤後の状況で10km歩けるでしょうか?

歩幅65cmの人が15,000歩で約10kmですから、一度、通学・通勤・普段の歩行エリアで万歩計を付けて対比し、10kmが自身にとってどれくらいの負担になるか考えておきましょう。

環境的な要素も加えるとすれば、夏場の気温は摂氏35〜40度のような猛暑、動きやすい普段着でもない上に、地震による被害(火災発生、道路寸断、家屋倒壊、浸水被害など)も考えれば、「10km歩ける体力がある」だけでは対処が難しい問題です。

帰宅困難者対策グッズのポイント

防災グッズは色々ありますが、野宿出来るほどの重装備を通勤・通学しつつ用意するのは無理がありますから、半日間の移動〜数日間の避難所間を過ごすのに必要な物をメインに揃えていく必要があります。

先ずは自身の通勤・通学・被災が予測される行動範囲でカスタマイズした帰宅困難時の専用のマップ。浸水や延焼等が危惧される危険箇所、病院、学校、空き地、トイレ、公園などの公共施設、広域避難所、高低差など。

一度歩いて自販機やコンビニの場所など、とにかく細かく書き込んでおく事が帰宅経路を計画・選択する上で役に立ちます。携行にはマジックチャックの付いた袋や、ラミネートやシーリング(※シーラーと呼ばれる機械でパッキング)などを行って防水加工しておくと良いでしょう。ラミネートなら耐久度も高まり、バッグ内でも嵩張りません。

飲料水は普段ペットボトルを持ち運ぶ方も多いと思いますが、せいぜい500ml程度。それ以上の水分はスーパーデリオス(携帯用浄水器)などで魚類が住める範囲内の水を浄水して使うと荷物を軽量化出来ます。

最近の携帯電話にはラジオ、テレビ、GPS(カーナビ機能)がついて情報収集ツールとしても重要な役割を果たしますが、雨天時の防水カバー、予備のバッテリーが無いと雨天時や継続的に情報を集める事が難しくなります。

遠方から通勤している市民が帰宅困難者が長距離歩くとスニーカーなどと違って靴ズレを起こしやすく、防止パッドなどで対策を講じましょう。勤務先にロッカーがあればレインコート、スニーカー、防水スプレーなどを常備しておくと良いでしょう。

季節に応じて冷暖対策も必要です。夏場の場合、水分の補給もままならないままで炎天下を何時間も歩く事は脱水症状、熱射病などの危険性が高まります。冬場は都市部でも氷点下になる事がありますので、帰宅に時間が掛かりそうならば視界の良い明るい時間帯のうちに避難所で待機する必要があります。

街灯や普段眩しいほど輝くビルから照明も被災地では恐らく点灯しません。LEDライトなどもあれば役立ちますが、遠方の被害状況が全く分からない夜間行動はかなり危険なので、避難所周辺や屋内が主な用途となるでしょう。

老朽化したビル(耐火被覆としてアスベストが用いられている可能性が高い)が何棟も崩壊が見込まれる地域には、粉塵やアスベストに対応できる防護マスク、可能であれば防護メガネ、洗浄目的の目薬などが必要となるでしょう。

帰宅困難者対策しておかないとマズイの?

まず地震による被害状況を確かめる必要がありますが、直ぐには入ってきませんし、テレビを見ることが出来る携帯電話にしても予備バッテリーか、手回し発電機でも無ければすぐにバッテリー切れになってしまいます。

情報を整理しないうちに無理に被災直後に帰宅開始すると、道路があちこちで通行不能になって迂回の連続となり体力を著しく消耗したり、二次被害に遭う可能性も出てきます。

徒歩で帰宅を試みる場合は帰宅への道順が分かっていたとしても、単純に市街地を歩けば良いという訳ではありません。余震で倒壊の可能性のある家屋、火災が発生した地域と延焼の恐れのある地域、窓枠が変形して窓ガラスが降ってくるビル街や商店街を迂回して進む必要があります。

帰宅困難者が休憩するにしても100万人単位の要求に対して民間・行政も対応する事は極めて困難な事です。各家庭・企業ともに被災後の水確保は大切ですし、駅・公園のトイレもすぐに長蛇の列になる上に排水処理も満足に行うことも出来ません。帰宅が見通しが利かない夜間に食い込めば、普段見慣れていないを街では目印を見落としを頻発させてしまう危険性が高まり、複雑な帰宅経路の選択は避けた方が良いでしょう。

総合して、帰宅困難者は「単に家へ徒歩で帰る事を強いられる」というだけで無く、遠方になればなるほど計画的な行動を要求される状態になると言えます。

帰宅困難者から「帰宅不能」になったら?

予め複数の避難所の位置を把握しておく事が大切。何度か帰宅訓練しても、どのような経路を辿るかは実際に被災してみないと分からないので「複数の避難所」を確認しておきましょう。

帰宅困難者も地震による避難民扱いとなりますので、帰宅不能になった時点で目的地を自宅から避難所へと変える必要がありますが、肝心の位置が分からないと帰宅経路の変更に手間取ってしまいます。

この際、NTTが提供する災害伝言ダイヤル(171)を活用して家族などへ「帰宅が一時的に不可能になった事」と「何処の避難所へ行くか」などを伝えておくと心配を掛けなくて済みます。但し、家族に災害時には災害伝言ダイヤル(171)を利用している事を予め知らせておくことが必要です。

避難所には大きな公園、学校などが指定されますから、帰宅困難者になった際の帰宅経路マップ上に目印を付けておきましょう。自治体のWebサイトや町内会単位で配布される地図にも防災の為のマップにも記されていますので是非確認を。

帰宅不能で避難所へ向かえるのならまだしも、体力の限界まで歩き尽くして「行動不能」に陥ることがないよう、充分気をつけて下さい。行政は震災直後は被害状況把握、生き埋めになっている方の救出や治療、消火活動などへ注力するはずなので公的な救援は望めません。

帰宅困難者への支援には何がある?

自治体は民間企業と提携して帰宅困難者に対して支援を要請。

具体的には生活協同組合や大手企業(コンビニ、ガソリンスタンド、その他広大な敷地を持つ企業など)が帰宅困難者へ食料品、飲料水、トイレの貸し出し、被災時の情報、休憩スペース、手足を洗う水道水、災害用伝言ダイヤルの提供といった物です。

ですが、「それだけ?」といえばそれまでの話。

上記は帰宅への支援であって、素早く帰宅出来る用意がある訳ではありません。物資にしても帰宅困難者の発生数に対して到底満たす事は出来ません。阪神淡路大震災でさえ最終的に30万人の避難者であるのに対し、首都圏直下地震では初日で帰宅困難者が最大650万人、避難者は700万人ともされています。

安否確認、交通や避難所の情報収集、他者への支援、帰宅可否の判断、帰宅経路選択、余力物資を確認しての帰宅開始、被災時の状況を随時把握。基本的には自主的な対策と判断を求められる事となるでしょう。

なお、災害時で大量に人・物が輸送が出来る船舶の運用は国土交通省 関東地方整備局 港湾航空部のデータによれば、平成16〜17年の時点・首都圏では殆ど見込めず(避難者に対して10〜20%くらい)とされ、10年後の平成27年頃で60〜100%対応するのではないか、とされています。

帰宅困難者に求められる事は?

通勤・通学している建物自体が倒壊しなくとも、エレベーターに閉じ込められてしまうかもしれませんし、戸棚等からの落下物で怪我、何らかの原因で火災が発生するかもしれません。

上記ケースの救援の他、持病を持つ方、身体障害者、体力の無い高齢者がいる場合の支援には、帰宅困難者が大きな戦力となります。

実際、阪神淡路大震災で救助部隊によって助け出された割合は数パーセント。あとは自力脱出と住民による救助が殆どなのです。

特に避難所へ向かう場合は、周囲の住民と協力して動くことがお互いの命を守ることになります。帰宅困難者にせよ、近隣住民にせよ、単独で避難所へ向かった道中で何かのアクシデントに巻き込まれると連絡してくれる人が居らず、さらに窮地へと陥ってしまいます。

帰宅困難者となったが、帰宅経路上に浸水地域が。通行可能か?

浸水が川のように流速がある場合、水位が時間の経過と共に増している状態は仮に低水位であっても通行は避けましょう。

水位が上がらない場合でも、水位が膝頭より上(30〜40cmが限度)になると素早い行動が全く取れなくなり、急に水位や流速が増した場合や、漂流物や落下物に対して回避が極めて困難になります。

水位が50〜60cmを超えてくると重量1トンを超えるような乗用車でさえ水が持つ浮力の為に浮いてしまい、漂流物と化します。水位や流速、流れている方向には充分気をつけて下さい。

流速が全くない池のような状態でも、浸水時は溝のフタやマンホールのフタが外れてしまっている場合や、地盤の沈降、液状化による地盤軟弱化で地面の状態が確認できないまま突き進むのは危険です。

マンホールのフタが外れていた場合、その中へ落ち込むだけで無く、下水道管内へ引き込まれてしまう場合もあります。溝もフタが無ければ踏み外してフタの縁などで大怪我するかもしれません。

やむを得ず通行する必要がある場合は、長い棒切れで水面下を突き刺しながら地盤の様子をさぐりつつ出来る限り安全を確保。集団で渡る場合は、先頭が到着時にロープを張れば脱落防止も兼ねて、移動がスムーズになるでしょう。

帰宅困難者の行動予測については?

帰宅困難者の行動研究、「NIED-EDM 川崎ラボラトリー研究開発 帰宅困難者の行動とその対策に関する調査」の三陸南地震モデル、仙台駅でのアンケートでは道路の走行が可能な場合では、家族・知人の車やタクシー、バスで帰宅する人が多く占めていました。

ただし、主要道路が寸断され、鉄道運転再開の見通しが立たないのが明らかになると、多くの人は徒歩による帰宅か、帰宅不能と判断して被災地に留まるかの判断を迫られます。

昼間に被災すると徒歩による帰宅を選択する人の割合が特に多くなり、視界が極端に低下する夜間は減少。被災地に留まったとしても数日後には、やはり徒歩での帰宅者が多くでるとの予想が出ています。

そして、ここで再び問題が発生します。

何百万人も帰宅困難者が発生して一斉に帰宅行動を開始しようとすると、あまりの混雑で都心部から特別区西部方面への移動速度が極端に低下してしまうのです。

川崎ラボラトリーのシミュレーションの予測では局所的ではあるものの、移動速度が時速0.4km (歩行速度が1/10)になってしまい「15時間経っても帰宅出来ない」という悲惨な結果も研究報告も出ていました。

混雑が全く無ければ被災5時間後で殆どの帰宅困難者が帰宅完了とされていますが、単純に人の混雑を加えただけで5時間経っても帰宅完了者は67%に留まり、残り650万人の33%、約215万人は昼12時から帰宅開始して夕方まで掛けても帰宅出来ないままなのです。